さまざまな機能が含まれる実行機能(遂行機能)
「実行機能」と聞いて、何を連想されるでしょうか。
あまり耳慣れない言葉ですよね。
これは心理学の領域では「実行機能」、リハビリテーションの領域では「遂行機能」と呼ばれてきた概念です。どちらも “executive function” の訳語であり、意味は同じです。ここでは「実行機能」という表現で統一したいと思います。
実行機能とは、簡単にいうと「目標を立て、それを実現するために、自分の行動を調整しながら進めていく力」のことです。
自閉スペクトラム症(ASD)は対人関係の難しさ、ADHDは落ち着きのなさや不注意、学習障害(SLD)は読み書きや計算の苦手さなど、それぞれに特徴的なイメージをお持ちの方も多いと思います。
しかし、どの発達障害にも、それ以外にもさまざまな特徴があります。
そのなかでも実行機能は、特にASDやADHDと深く関係していると考えられている概念です。
実行機能をもう少し詳しく説明すると、
「課題の表象」
↓
「計画(プランニング)」
↓
「課題の遂行」
↓
「望ましくない反応の抑制」
↓
「評価と必要に応じた修正」
という一連の流れを支える心の働きです。
なお、この実行機能に「ワーキングメモリ」を含めるかどうかについては、研究者によって考え方が分かれています。
ワーキングメモリとは、聞いたことや見たことを一時的に保持しながら考えたり、作業したりするための力です。
課題の内容を覚えながら進める必要があることを考えると、実行機能と密接に関係していることは間違いないでしょう。
さて、実行機能を簡単な図で表すと、下のようになります。

例えば、ゴミがたくさん落ちている場所で、空き缶だけを集めようとしている人がいるとします。
まず、「空き缶だけを集める」という課題を理解し、それを頭の中で整理します。
次に、「どの順番で集めれば効率がよいか」を考え、実際に集め始めます。
その際には、空き缶以外のゴミに気を取られないよう、自分の反応をコントロールする必要があります。
そして、「もっと効率よく集められないか」と振り返り、必要に応じてやり方を修正していきます。
このように、それぞれの機能が組み合わさることで、「実行機能」という心の働きが成り立っているわけです。
では、なぜ実行機能は発達障害と深く関係しているのでしょうか。
ASDのある人には、自分なりのルールや方法を大切にする傾向がみられることがあります。
これは見方を変えれば、一つのことを深く追究できる強みにもなります。
興味のある分野を徹底的に学び、高い専門性を身につける人も少なくありません。
一方で、この特徴は「柔軟にやり方を変えること」が求められる場面では難しさにつながることがあります。
例えば、「計画(プランニング)」の段階で効率のよい方法を選びにくかったり、「評価と必要に応じた修正」の段階で、非効率な方法だと気づいても切り替えることが難しかったりする場合があります。
一方、ADHDのある人では、ワーキングメモリに苦手さがみられることや、「望ましくない反応の抑制」が難しいことがあります。
本来、一つの課題に取り組んでいる間は、その課題に必要のない刺激には反応せず、集中を維持することが求められます。
しかし、反応を抑えることが難しいと、周囲のさまざまな刺激が気になってしまい、本来の力を十分に発揮できないことがあります。
そして、大人の発達障害では、この実行機能の苦手さが日常生活や仕事上の困りごととして現れることがあります。
先の見通しを立てて計画することや、優先順位を考えながら作業を進めること、複数のことを段取りよくこなすことなどが苦手になりやすいためです。
その結果、「能力がない」のではなく、「持っている力を十分に発揮しにくい」状態になってしまうことがあります。
ここまで「課題」という言葉を使ってきましたが、課題とは何も難しいことばかりではありません。
部屋の片づけも、料理も、買い物も、仕事も、私たちは日常生活のなかで数え切れないほどの課題をこなしています。
特に料理は、「切る」「炒める」「味付けをする」といった複数の工程を進めながら、同時に別の作業も行うことが多いため、実行機能が大きく関わる活動の一つといえるでしょう。
私たちは誰でも、普段は意識することなく、この実行機能を使いながら日常生活を送っているのです。
