発達障害と「感覚」のこと

発達障害について考えるとき、「感覚」という視点はとても大切です。

ここでいう「感覚」とは、目や耳、鼻、舌、皮膚などの感覚器を通して受け取った刺激を、脳がどのように感じ、処理するかということを指します。

特に、自閉スペクトラム症(ASD)のある人の中には、音や光、におい、肌ざわりなどに敏感であったり、逆に刺激を感じにくかったりする人がいます。

現在の診断基準(DSM-5-TR)でも、こうした感覚の特徴はASDの一つの特性として位置づけられています。

また、日本で広く用いられているASDの評価尺度であるPARS-TR(Parent-interview ASD Rating Scale)にも、感覚に関する質問項目が含まれており、感覚の特徴が子どもの理解に役立つことがわかります。

子どもは遊びを通して感覚を育てています

子どもは毎日の遊びや生活の中で、さまざまな感覚を経験しています。

いろいろなものを見たり、音を聞いたり、においをかいだり、味わったり、触れたりする経験を積み重ねながら成長していきます。

こうした視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚は、「五感」と呼ばれる基本的な感覚です。

多くの子どもは、こうした日々の経験を通して少しずつ感覚の使い方を身につけていきます。

感覚の感じ方には個人差があります

ASDのある子どもの中には、生まれつき感覚の感じ方に特徴がみられる人がいます。

例えば、聴覚に敏感なお子さんは、電車や花火、掃除機、トイレのエアータオルなどの音をとても強く感じ、思わず耳をふさいでしまうことがあります。

また、味や食感への敏感さから、特定の食べ物だけを避けることがあり、偏食として見られる場合もあります。

このような感覚の特徴は、お子さんがわがままだからではなく、「そのように感じている」ということを理解することが大切です。

もちろん、感覚の特徴には大きな個人差があり、すべてのお子さんに同じような様子がみられるわけではありません。

五感以外にも大切な感覚があります

作業療法などの分野では、「感覚統合」という考え方があります。

感覚統合とは、さまざまな感覚から得られた情報を脳が整理し、身体をうまく動かしたり、周囲の状況に適切に対応したりする仕組みを指します。

この考え方では、五感に加えて、「前庭覚」と「固有受容覚」という二つの感覚も大切にされています。

前庭覚

前庭覚とは、自分の身体がどのように動いているか、どの方向へ傾いているか、どのくらいの速さで動いているかなどを感じる感覚です。

例えば、ブランコに乗ったり、滑り台を滑ったり、目を閉じたまま回転したりしても、自分がどのように動いているかを感じられるのは、この前庭覚が働いているからです。

固有受容覚

固有受容覚とは、自分の身体の位置や、筋肉や関節にどのくらい力が入っているかを感じる感覚です。

例えば、コップを持つときに必要以上の力を入れずに持てたり、鉛筆を適切な力加減で握れたりするのは、この感覚が働いているためです。

この感覚がうまく使いにくい場合には、身体の動きがぎこちなく見えたり、「不器用」と言われたりすることがあります。

感覚の特徴は行動の背景にあることがあります

感覚の特徴は、目には見えません。

しかし、お子さんの行動の背景には、感覚の感じ方が関係していることがあります。

例えば、

・長い時間座っていることが苦手

・視界に入るものが気になって集中しづらい

・身体を動かすことが苦手

・転びやすい

・特定の衣服や靴を嫌がる

・偏食が強い

このような様子がみられるとき、背景に感覚の特徴が関係している場合もあります。

もちろん、これらの様子だけで感覚の問題があると判断することはできません。

同じような行動でも、その背景にはさまざまな理由が考えられるため、一人ひとりの様子を丁寧に見ていくことが大切です。

「できる・できない」だけでは見えてこないものがあります

発達について考えるとき、私たちはつい「できる」「できない」という結果に目が向きがちです。

しかし、その行動の背景には、「どのように感じているのか」という感覚の違いが隠れていることがあります。

感覚の特徴を理解すると、「なぜこの子はこういう行動をするのだろう」という疑問が、「この子にはこう感じられているのかもしれない」という理解へ変わることがあります。

もちろん、感覚の特徴だけですべてを説明できるわけではありません。

それでも、お子さんを理解するための一つの大切な視点として、「感覚」に目を向けることには大きな意味があると私は考えています。